程度の差はあれ、誰しもが精神に異常をきたしたことが、一度や二度はあるのではないだろうか。
病んだことがある人には、同種の人の言葉が分かる。
同じ浸透率を持つ言葉に敏感である。
10年くらい前に、何かの雑誌のインタビューでタレントの吉川ひなのが
自分がこう考えてるのは、本当はこういうことではなくて、こうだからなんじゃないか、と出元を探っていくと、メビウスの輪のようにぐるぐると堂々巡りをしてしまって、ずっとそんなことばかり考えていたというような趣旨のことを言っていた。
自分にはこのとき、この意味がはっきり分かったし、こういうダウナーな考察が、こんなモテ系女子の口から出たことに驚いたのを覚えている。
考えるということと、悩むということは違うとは、哲学的エッセイスト池田晶子の言である。
この人も鬱気質の人ではあったが、だからこそ、上の言葉を発した。
哲学者には精神的な問題を抱えていた人は多かった。
ニーチェやウィトゲンシュタインはそうだった。
哲学が原因でそうなるのではなくて、そういう人には哲学が落ち着く(親和性が高い)から哲学と関わることが多いのだと思う。
病んだために、考えることを始めた哲学者がいれば、自分の心をじっくり見つめたヴィクトール.E.フランクルのような精神科医もいる。
また、病んだために詞を書き、音楽を始めた人もいる。
それはベルギー出身のアーティスト、Selah Sueだ。
Selah Sueは1989年、ベルギーのレーフダール出身。
15歳でギターを始め、高校時代にはMyspaceを開始。
レーベルからの契約の誘いはあったものの、断り、ルーヴェン・カトリック大学に進学し、心理学を専攻した。
在学中の音楽活動時にデビュー作のプロデューサーであるDJ Farhotと知り合い、学業を断念。
フランスのBecause Musicと契約し、EPを複数発売後、2011年にアルバムを発売し、世界デビュー。
ヨーロッパではヒット作となり、ベルギーでは一番人気のアーティストだという。
曲調はレゲエ・ソウルと評される。
スリーコードのスパイシーで泥臭い曲に、汚い声(褒め言葉)で歌う感じは、レゲエ調のAmy Winehouseとでも表現しようか。
そういえば、Amyも自分のアルコール・ドラッグ依存による精神状態を歌詞にしていたし、悪い精神状態をネタにしている点では本当にAmyっぽくもある。
SelahはサウンドがAmyよりもストリート/若者向けなのに、やっぱり歌詞が暗い。
I just have those moments when the darkness inside takes over control.
I just have to face the dark in side my head. - "Fyah Fyah"
I need an explanation and some fitting solution,
Because I'm turning into a stranger more and more.
My emotions make me feel insecure. - "Explanation"
Selahはこういった歌詞を書く理由をここで以下の様に述べている。
Music saved me. From the time I was 14 to 18, I was really depressed. My issue with depression is partly genetic. All of my grandparents have psychological issues but as a teenager I suffered from so much anxiety and doubt. I had a big identity crisis. I didn't know who I was or what I stood for. It was pretty dark.
芸人で言うところの「ガチなヤツ」である。
Amyのようにアルコール依存が誘発した自堕落的な暗さではない。
そんな筋金入りのメンタル姐さんがEPを出した。
曲名は『Alone』。
子持ちの彼氏と同棲していたのに、分かれたのだろうか。
とても明るく、ファンキーな曲調なのがまた歪曲していて、素晴らしい。
もう彼女の書く歌詞は精神世界ではなくなっていた。
暗い10代を終え、歌手として売れ、忙しく活動している彼女はもう過去の場所にはいなかった。
EPの中に、デビューアルバム挿入曲の『Summertime』を彷彿させる癒し系コードの『Time』という曲がある。
その歌詞が証拠だ。
Time will tell you
The bad days will fade
Time will tell you
If your heart will stray
人間として変わったSelahが3月発売のアルバムでどういう世界を描くのか、非常に楽しみだ。
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