2016年3月23日水曜日

ポップミュージックのリサイクル業者、シーア

シーアは顔を隠しているのに、言うことは明け透けである。
ビヨンセとの曲作り合宿の裏側を語ったり、カニエはスタジオにも現れないのに共作者に名を連ねていると暴露したりと、インサイダー情報満載のパーティマウスっぷり。
それでも相変わらず顔は『シャンデリア』以降もベール、いや、ウィッグに包まれたまま。

今年初めに発売されたアルバム『This Is Acting』は2014年発売のアルバム『1000 Forms of Fear』同様、様々な歌手に提供したお蔵入りの楽曲集である。
アデル、リアーナ、ビヨンセ、ケイティ・ペリー、シャキーラ、デミ・ロヴァート等錚々たる顔ぶれに提供された曲の数々は、少し運命が違っていれば彼女らのアルバムに収録されるはずだったわけで、品質は一級ということを物語っている。

しかし、どれを聴いてもSia色が強い。
アデルと共作したといわれる『Alive』だが、アデルの面影がひとつも感じられない。
アデルが収録しなかったのも頷けるほどのSia節だ。

人のために書いた曲を、収録されなかったから自分で出すというなんとも貧乏性というか、エコフレンドリーな精神。
しかも内容は14分で書かれてしまうような安易で歯切れのいい歌詞に、キャッチーなメロディである。

すっかりシーア印となった、「私は強い。私は負けない」という自己顕示に溢れた少年アニメの主題歌のような世界観は『Alive』、『One Million Bullets』、『Unstoppable』、『House On Fire』などで健在。
『Chandellier』で聞かれた虚飾の豪華絢爛さ、向こう見ずな若さはリアーナ向けの『Cheap Thrills』が担当。

一日に何曲も書き上げるということは、毎日様々な音楽を聴いているということである。
その分、耳は肥えるし、今の流行が分かる。
しかも選択肢は有名アーティストの元でヒットさせるか、自分が歌ってヒットさせるか、お蔵入りかのどれかしかない。
お蔵入りが発生するのは仕方ないとして、どうしたってお得な選択ができる、おいしい立場である。

ポップミュージック界きってのリサイクル業者、シーアはツアーをしない。
この音楽ソフトが瀕死となり、ライブやフェスといった興行の時代に、大胆にも逆を行く。
ツイッターで口撃したり、インスタグラムで炎上商売を仕掛けなくても彼女にメディアの視線は注がれる。

一流歌手の要らない楽曲を、欲しがるリスナーに届けるという音楽リサイクル業者のアイディア勝ちである。