2015年2月15日日曜日

マイリー・サイラスは黒人音楽を利用しているのか

Wendy Williamsが自身のテレビ番組で「Miley Cyrusは黒人文化を利用しているという声がある」と紹介した。



過去にはElvis PresleyがChuck Berry、Little Richardから影響を受けつつ大ヒットし、ロックの王様の様になったが、ChuckとRichardはそこまで売れなかったことを挙げている。

そして現代にはJustin Timberlakeがソロ活動を行う際に、D'Angelo的なファルセットを多用した都市的R&B作品でUsherあるいはMichael Jackson的なダンスを踊り、人気を博した。
そしてそういう人々は年を取ると、まるで「若気の至り」だったと言わんばかりに普通の中年の白人になるとWendyは指摘している。



Mileyについては実際僕自身、友達とMTV VMA放送後、あまりにも「黒人ぶっている白人」像だったので少し不愉快だったと喋っていた。
それはMileyだけでなく、Robin Thickeに対しても抱いた感想だった。



WendyはMileyのMTV VMAでのパフォーマンスを見て、白人が黒人っぽいアプローチを採るのに慣れっこになってしまっていたため、何も感じなかったと言う。
ということは慣れる前、例えばJustinソロデビュー時の2002年頃にはまだ辟易していたということだろう。



2002年と言えばChristina AguileraやBritney Spears、P!nkのような白人アーティストがブラック的手法を取り入れて活動し、白人ラッパーのEminemが彼らをディスっていた時期である。
いまよりもまだロックも盛んで、ロックには白人アーティストが多かったため、逆にブラックミュージックを演奏する白人アーティストは目立っていた。




今では多くの白人がブラックミュージックやストリートミュージックを発売しているし、それに違和感を唱える人はほとんどいない。



なぜMileyばかりがたたかれるのだろうか。
あるいはJustin、Robin、Elvisだけがなぜ、黒人文化を利用していると言われるのか。



その理由は二つあると思う。

一つはアイドルだから、もう一つはメディア露出度が高いからではないだろうか。



例えば日本の歌謡界で70年代に振り付きで踊ることが流行ったのはアイドルの隆盛が一因である。
もちろんそれまでにも振り付きで歌っていた人はいたが、流行らなかった。
アイドルはそれまで水面下にあった芸術様式を大衆の世界へと引き上げる働きをしている。



アイドルのデビューの際は、得てしてレコード会社は制作にお金をかける。
有名プロデューサーや作詞家・作曲家を起用してみんなの総力を挙げて送り出す。
その時代の精鋭制作陣が作ったものがアイドルの作品になる。

プロデューサー陣がブラックミュージック畑の人間なら当然新人アイドルはブラックミュージックでデビューすることになる。



次に、高いメディア露出度はファンを増やす一方、ヘイター(アンチ、反対勢力)も増やす結果を招く。
バラエティ番組に出ずっぱりの坂上忍に対して抗議する笑い飯・哲夫や、Shellyやベッキーのようなハーフタレントばかりが番組MCを務めることに苦言を呈する友近のような現象が起こる。



つまりMileyはアイドルとしてブラックミュージックの手法を宛てがわれ、露出度が高かったために多くの目にさらされた。
そして「白人がVMAという国民的音楽番組でジャマイカのクラブレゲエの踊りを更に露骨にしたような演出をしたこと」に人々が違和感を訴えたのだ。

あるアーティストは、Mileyのパフォーマンスには女性としての尊厳が欠けていると批判した。
そして別の人々はMileyは黒人文化を利用していると批判した。



アイドルなんて所詮取って付けたような虚飾を纏った存在である。
伝統芸術の様に、存在の正当性が唱えられるような立派なものではない。
アイドルの意義は偶像性であり、金太郎飴の様にどこを切ってもその人らしくそこに存在することであるから、音楽性に劣っていてもその存在意義は揺るがない。



ただWendyはじめ多くの黒人にとって、元々ブラックミュージックだったロックが白人が優勢の音楽になってしまった過去から、Hip HopやR&Bもそうなってしまうことをおそれている部分はあるのではないかと思う。




参考サイト:http://www.theatlantic.com/entertainment/archive/2014/07/whats-so-great-about-elvis-he-didnt-invent-or-steal-anything/374081/

2015年2月12日木曜日

メンタル系シンガー、セラ・スーが帰ってきた

突然だが、気が病んだことはあるだろうか。
程度の差はあれ、誰しもが精神に異常をきたしたことが、一度や二度はあるのではないだろうか。



病んだことがある人には、同種の人の言葉が分かる。
同じ浸透率を持つ言葉に敏感である。
10年くらい前に、何かの雑誌のインタビューでタレントの吉川ひなのが
自分がこう考えてるのは、本当はこういうことではなくて、こうだからなんじゃないか、と出元を探っていくと、メビウスの輪のようにぐるぐると堂々巡りをしてしまって、ずっとそんなことばかり考えていた
というような趣旨のことを言っていた。
自分にはこのとき、この意味がはっきり分かったし、こういうダウナーな考察が、こんなモテ系女子の口から出たことに驚いたのを覚えている。



考えるということと、悩むということは違う
とは、哲学的エッセイスト池田晶子の言である。
この人も鬱気質の人ではあったが、だからこそ、上の言葉を発した。



哲学者には精神的な問題を抱えていた人は多かった。
ニーチェやウィトゲンシュタインはそうだった。
哲学が原因でそうなるのではなくて、そういう人には哲学が落ち着く(親和性が高い)から哲学と関わることが多いのだと思う。



病んだために、考えることを始めた哲学者がいれば、自分の心をじっくり見つめたヴィクトール.E.フランクルのような精神科医もいる。



また、病んだために詞を書き、音楽を始めた人もいる。
それはベルギー出身のアーティスト、Selah Sueだ。



Selah Sueは1989年、ベルギーのレーフダール出身。
15歳でギターを始め、高校時代にはMyspaceを開始。
レーベルからの契約の誘いはあったものの、断り、ルーヴェン・カトリック大学に進学し、心理学を専攻した。
在学中の音楽活動時にデビュー作のプロデューサーであるDJ Farhotと知り合い、学業を断念。



フランスのBecause Musicと契約し、EPを複数発売後、2011年にアルバムを発売し、世界デビュー。
ヨーロッパではヒット作となり、ベルギーでは一番人気のアーティストだという。



曲調はレゲエ・ソウルと評される。
スリーコードのスパイシーで泥臭い曲に、汚い声(褒め言葉)で歌う感じは、レゲエ調のAmy Winehouseとでも表現しようか。
そういえば、Amyも自分のアルコール・ドラッグ依存による精神状態を歌詞にしていたし、悪い精神状態をネタにしている点では本当にAmyっぽくもある。



SelahはサウンドがAmyよりもストリート/若者向けなのに、やっぱり歌詞が暗い。

I just have those moments when the darkness inside takes over control.
I just have to face the dark in side my head. - "Fyah Fyah"

 I need an explanation and some fitting solution,
Because I'm turning into a stranger more and more.
My emotions make me feel insecure. - "Explanation"



Selahはこういった歌詞を書く理由をここで以下の様に述べている。
Music saved me. From the time I was 14 to 18, I was really depressed. My issue with depression is partly genetic. All of my grandparents have psychological issues but as a teenager I suffered from so much anxiety and doubt. I had a big identity crisis. I didn't know who I was or what I stood for. It was pretty dark.

芸人で言うところの「ガチなヤツ」である。
Amyのようにアルコール依存が誘発した自堕落的な暗さではない。



そんな筋金入りのメンタル姐さんがEPを出した。
曲名は『Alone』。
子持ちの彼氏と同棲していたのに、分かれたのだろうか。
とても明るく、ファンキーな曲調なのがまた歪曲していて、素晴らしい。



もう彼女の書く歌詞は精神世界ではなくなっていた。
暗い10代を終え、歌手として売れ、忙しく活動している彼女はもう過去の場所にはいなかった。



EPの中に、デビューアルバム挿入曲の『Summertime』を彷彿させる癒し系コードの『Time』という曲がある。
その歌詞が証拠だ。
Time will tell you
The bad days will fade
Time will tell you
If your heart will stray


人間として変わったSelahが3月発売のアルバムでどういう世界を描くのか、非常に楽しみだ。

2015年2月4日水曜日

レディー・ガガは結局レッド・ワンなしではやっていけないのではないか

Lady Gagaが次のアルバムでは再び、プロデューサー、RedOneと組むことを明らかにしている。
最新作『Artpop』が商業的に不出来だったことも再タッグの理由の一つだろう。



RedOneはモロッコ出身のプロデューサー。
19歳のときにスウェーデンにわたり、ミュージシャンを目指すも23歳のときに裏方に回ることを決意。
ヨーロッパでは様々なアーティストと仕事をしつつ、下積み生活を送り、35歳にて妻と共に渡米。
鳴かず飛ばずで無一文のときにKat DeLunaやLady Gagaと出会い、日の目を見る。



特筆すべきは、彼がスウェーデンに渡った理由で、スウェディッシュ・ポップが好きだったからだそうだ。
既にここにポップミュージックのセンスがある。
彼の手掛けた作品を聴くと、飛びぬけて明るい、または気分が高揚する曲が多い。



スカンジナビア半島のプロデューサー陣は本当に世界を股にかけ、ポップミュージックを量産していて恐ろしいくらいだが、Gagaの有名曲はやはりこのRedOneの手掛けた曲が大半だった。
以下の曲がRedOneプロデュース曲である。


  • "Just Dance" (Feat. Colby O'Donis)
  • "LoveGame"
  • "Poker Face"
  • "Money Honey"
  • "Boys Boys Boys"
  • "Paper Gangsta"
  • "Bad Romance"
  • "Alejandro"
  • "Monster"
  • "So Happy I Could Die"
  • "Judas"
  • "Hair"
  • "Scheiße"

M.I.A.は以前、Lady Gagaの曲を「イビザ島のディスコみたい」と批評したことがあるが、それはさしずめRedOne批判でもあり、なおかつ的を得ているとも言える。

Swedish House Mafiaなどスウェーデン出身のハウスアーティストの作品はやはりとても明るく、こういう音楽がイビザ島でかかるとすれば、確かにRedOneの曲もイビザっぽいということになるからだ。



Lady GagaはAndy Warholの世界観を模倣し、MadonnaやGrace Jonesの出で立ちを踏襲し、LGBTの代弁をしながらポップ・ミュージックを発信してきたが、それもこれもRedOneのド級のポッププロデュース力がないと、ここまで注目されなかったのかもしれない。

GagaにとってのRedOneは、J-popにとっての「カノンのコード進行」の如き最終兵器であり、Gagaは一発目から伝家の宝刀を抜いていたのかも知れないのだ。



もしRedOneと組まなかったら、Lady Gagaはどんな音楽をやっていたのだろう。