2015年4月17日金曜日

リアーナによるアメリカンドリーム論

昔のHIPHOPやR&Bは、よくアルバム中に社会問題を歌った暗い曲が1、2曲あった。
黒人差別や貧困問題、蔓延する薬物など、プロジェクトで育った黒人アーティストにとっては、故郷さらに祖国は希望で眩い素晴らしい国ではなかった。



出自からの社会問題的視点に限らず、音楽家は社会問題に感化されることが多い。
特にMichael Jackson以降、その傾向が強いと思う。
2001年の同時多発テロで、再びその動きが活発化し、多くの歌手がそれに感化されて曲をつくった。



それから時は経ち、社会問題を課題とした曲は減った。



そんな2015年の春、東京ガールズコレクションでも観客の群集が歌詞を口ずさめるくらい日本でも人気があるRihannaによって、シングル「American Oxygen」がリリースされた。
彼女にしては珍しく、また、近年の音楽業界的にも珍しく問題提起型の楽曲である。
ビデオでは、アメリカ合衆国のこれまでの歴史に残る場面の継ぎはぎの合間にRihannaが映る。



Paul Mccartney、Kanye Westとの共演では、デビュー当時とは段違いの見事な魂のこもったボーカルを聴かせたRihannaだが、今作のビデオでは戦争、人種問題、移民問題、経済問題など、もはや何を訴えているのか茫洋としてしまうくらい幅広く社会問題を網羅している。
そこで歌詞を見てみよう。


I say, you see, this is the American Dream
Young girl, hustlin'
On the other side of the ocean
She can be anything at all



なんてことはない、アメリカンドリーム論である。
ビデオがアメリカ合衆国の社会問題のシーン集であることで、視聴者は正確なメッセージを受け取りづらくなっている。



しかしこのアメリカンドリーム論は、デトロイトから35ドルを手にニューヨークに乗り込み、スーパースターになるという80年代の武勇伝とはもはやスケールが違う。
紺碧のカリブ海の少女が、アメリカ合衆国を代表する歌手になるという話だ。
バルバドスも立派なアメリカ大陸の一部であり、その意味ではRihannaもアメリカ大陸人である。
アジアでいえば、フィリピン出身の女の子が中国で成功し、チャイニーズドリームを歌っている感じであろうか。



アメリカと聞くと、アメリカ合衆国を連想するがカナダではアメリカ合衆国のことを「America」ではなく「The States」と呼ぶ。
カナダもアメリカ大陸の一部だからだ。
21世紀のアメリカンドリームはもはや大陸レベルなのである。



しかし、まぁこのビデオを見るにつけ、この短い歴史の中でこれだけ大きなエントロピーが起こる国も他にないなと思った。
自由と民主主義の国は色々な意味で激しいのだ。