他でもない、R&Bの現状に警鐘を鳴らした形だ。
アトランタ出身で、教会で歌いながら育ち、子供時代はタレントショウ荒らしだったモニカは、ダラス・オースティンに発掘されて11歳でレコード契約。
ストリート色のあるR&Bを歌い、断続的にヒットを放ち、2~5年の間隔でアルバムを発売し続けている。
それはつまり、音楽シーンに居続けているということを意味する。
常に音楽とふれあい、クワイヤの一員として歌いながら育ち、子供時代から音楽業界にいるのであれば、それ以外のライフスタイルを知らないのだとも言える。
そんなベテランが発する「厳戒令」はR&Bの現状を訴える物だとしても説得力はあるが、その内容自体は驚くべきものではない。
2013年のSoul Train AwardsでTamar Braxtonが"Thank you so much for believing R&B music"とスピーチをしたり、昨年Tyreseが"Is it true? They say R&B is dead"とFacebookに投稿したりしたのも記憶に新しい。
そして、何よりも我々には現実的に「R&Bの良い曲を最近聴いていないなぁ」という実感がある。
モニカは「90年代以前のR&Bソウルの愛や力を復活させたかった」と言う。
90年代、00年代のR&Bが豊富に生まれた時代はもう来ないのだろうか。
一時期にディスコ曲が流行って、それ以降は下火になったことを例に出してみよう。
ディスコ音楽の成功は、ディスコという場所と関係する。
この際、「ディスコが先か、音楽が先か」という鶏と卵問題は置いておいて、R&Bが下火になったのは、聴かれる場所が減ったからではないか。
アメリカの事情は良く知らないが、日本でもR&Bを流すクラブは減ってきているように思える。
この動画(8分8秒あたり)でモニカは「自分の前数作を含めて、何が欠けているのかは分かっている」と自己言及している。
随分と客観的で冴えていらっしゃる。
実際、個人的な感想だが、モニカはEDMにこそ転向しなかったものの、『All Eyes On Me』以降の作品は、僕にはその他の多くのラチェットミュージックと同じように聴こえ、引っかかるものが無かった。
しかし、今回の『Code Red』は久々の良作で、大胆にもYouTubeに全曲上がっていたので、試聴し、迷わず購入となったところだった。
Code Redという軍隊用語もまたストリートライクで、モニカらしい命名だと思う。
ストリート文化では仲間のことをSquadと呼ぶなど、何かと戦闘や軍事用語と親和性が高い。
モニカが一体いつ良質なR&B音楽から離れてしまったのかは明言していないが、そのときくらいからR&Bの衰退は始まっていたのではないだろうか。